技術経営のエキスパートで著書も多い出川通氏が、初めて技術者のキャリアプランについて著した「75歳まで働き愉しむ方法」を紹介します。

近年の高齢者の元気さには驚くべきものがあり、私があらためて言うまでもなく、このパワーを活かさずして日本社会の発展(維持?)はありえません。本書は、人生百年時代の技術者に贈るライフプランの提案書です。

出川氏は、あるきっかけから51歳で大手メーカーを退職し、以来多くの大学で教壇に立つ一方、企業へのコンサルティングや自らベンチャーの役員として経営に参画してきました。

本書では自らの経験を踏まえて、100年の人生を25年毎に4つのステージに分割し、各局面に合わせて活動することを勧めます。
(1)0~25歳 学習期:活動期に備えて、基本的な知識と考え方を学ぶ期間
(2)25~50歳 組織内充実期:(1)で獲得した知識、考え方を元に、組織内で業務を遂行することにより、家計を支えると共に、自分の専門分野に関する経験を積み、専門性を深める
(3)50~75歳 自立充実期:(2)で確立した専門性を活かして組織から離れ、組織ではなく自分の能力で世界を拓き、自己目標を実現する
(4)75歳~ 悠遊記:(3)までに獲得した立場と財産で、余裕を持って趣味や社会貢献活動をする

本書の提案内容が一般的な技術者人生と異なるのは、100年の折り返し地点である50歳で組織を離れようとする点です。
ほとんどの技術者は60歳の定年まで、あるいはさらに雇用延長制度を最大限使って65歳まで企業に留まることが多いものです。

この選択のメリットは、慣れた環境で65歳まで、収入は下がるもののそれなりにやりがいのある仕事を続けられることですが、問題は退職時に100年人生がまだ35年も残ることです。この期間、特に75歳までの比較的元気な10年間をどう過ごすかが課題です。そして世に言う3000万円問題、すなわち100歳までの生活費は十分でしょうか?

またすべての技術者が50歳から65歳にかけて充実した人生を送るとも思えません。事業部長、取締役クラスになれば別ですが、ほとんどの場合どこかで役職を解かれ、報酬が下がります。不本意な業務につくこともあるでしょう。

私はたまたま本書で勧めるタイミングに近い53歳で企業を離れました。若干体力が落ちたとは言え、その時点でまだ新しいことを始めるパワーが残っていたため、会社を設立し、6年掛けて修士、博士の大学院も修了しました。一説によると起業の成功確率が最も高いのは、50代だそうです。

一方60歳はまだしも65歳になると、現状を維持する気力、体力はあるものの、新しいことを始めるにはちょっと心もとない気がします。私の経験では、周到に準備したとしても新しい事業を立ち上げるには3年から5年かかります。65歳で始めると、体力的に立ち上げに時間がかかり、立ち上がった頃には急いで後継者を探す時期になってしまいます。

となると、真面目に事業を開始してある規模になるまで面倒をみるつもりであれば、やはり50代前半にスタートする必要があります。私は53歳で企業から離れたものの、新事業で会社を設立した時は55歳でした。もし数年早く起業していれば、もう少し大きく育てて、楽しめたように思いますが、過ぎてしまったことは仕方がありません。その時々で良かれと思った選択の結果が現在です。

また仮に当人が35年間社会的生産活動をしないで充実した人生を送れたとしても、その人の能力を無為に放置することは社会にとって大きな損失です。経済的に自活できるなら不本意な仕事をする必要はありませんが、生産年齢人口が毎年数十万人規模で減少していく今日、体力、気力が続く限り(例えば75歳まで)は、楽しみながら付加価値を生み出す活動をしないことには、国力の維持、向上は望めないでしょう。そのつけは、私達の子供、孫、それ以降の世代に引き継がれるのです。

 

書評と言うよりは、ほとんど本書に刺激されて私が考えたことになってしまいました。もちろん個人個人の性格、能力、志向によって提案の適合度は違いますが、私は結果的にほぼ本書提案のタイミングで転進しているため、非常に納得感があります。是非皆さんも一読して、考えてみてください。