自分の40年にわたる技術者人生を振り返ってみると、なかなか思った通りにいかないものだという感慨があります。その「想定外」は必ずしも悪い方向だけでなく、良い意味での想定外もありました。しかし「どうせ思ったようにいかないのだから、計画を立てない」という考えは正しくありません。計画しないので行きあたりばったりでは、うまくいっているのか、ダメなのかの判断すらつかないからです。ダメならダメで、どこがどれくらいダメなのかが分からないと対策が決まりません。

まずは大きな計画をたてて、それに沿った小さなマイルストーンを設定し、やってみて合わないようなら修正する。それを何度も繰り返して、技術者として、人間としてのリスクに備え、大きな目標に近づくべく、都度の適切な判断を下す努力が大切です。

技術者の理想的キャリアを10歳刻みで分けると、ざっと次のようなところでしょうか。

  1. 20代:基礎的な専門知識と、仕事の進め方を習得
  2. 30代:チームリーダーとして事業計画に沿った技術テーマを設定し、チームをけん引する
  3. 40代:組織長として自ら事業テーマを設定、運営し、企業に利益をもたらす。
  4. 50代:経営幹部として技術戦略を設定し、将来的な成長路線を検討、準備するとともに、後進を指導する。
  5. 60代:自分の技術、考え方を社外にも展開すると同時に、後進に継承する

もちろん同じく製造企業に技術者として入社したとしても、30代以降の進路は様々です。生涯エンジニアを貫く人、管理職としてチームのアウトプットを高める人、そして色々な理由で会社から離れ自分の事業を創る人もいます。岐路に至る事情も千差万別ですし、本人の能力、希望も違いますから、どれかが正解というものではなく、その時点での最適な選択の積み重ねが現在の状態です。計画は大事ですが、状況は刻々と変わりますから計画に縛られてもいけないのです。

キャリアを考えようとする前に皆さんにお勧めするのは、自分の幸せの定義を今時点で設定することです。専門技術を極めて社外での評価も高く、社内で出世して高額報酬をもらい、家庭も大事にして健康で趣味も楽しむ。それができれば理想ではありますが、残念ながらすべての人は等しく限られた時間しか与えられていません。何かを犠牲にしなければいけない局面が必ずやってきます。やるべきことを選ぶのではなく、やらないことを決めるのは本当に難しいものですが、自分が最も幸福を感じる時を思い起こし、あまりぶれないように優先順位を決定する必要があるのです。

幸せを感じる時も年代とともに変わってきます。自分も若い頃は、趣味に没頭しているときが一番楽しかったのですが、技術士の受験準備を始めてからは、新たな知識との出会いが楽しくなり。現在はその知識や人脈を若者や他の人に教えて役立つことに生きがいを感じるようになりました。どれが正しいというものではありません。自分に正直で良いと思いますが、一般論で言えば他の人から感謝される時に、最も幸福感が高まると言われます。

先ほど1-5で示したような画にかいたようなキャリアを進む技術者はほんの一握りです。多くの人は意図せず、場合によっては自ら意図してそれとは違う道をたどります。それが自分の幸せの定義と合っていれば問題ないのですが、どうしても合わない場合はその会社から出ざるを得ないこともあるでしょう。転職、独立は、その決定が大きな意味を持ちます。その際はそこまでの経験、習得した知識を活かせる進路を選ぶべきでしょう。隣の芝生は青くきれいに見えるものですが、見た目の良い進路はそれを目指す人も多いものです。

自分のキャリア戦略を考えるに当たり、事業戦略策定ツールである「クロスSWOT分析」を自分個人に対して使ってみるのもお勧めです。自分の強み、弱みをできるだけ客観的に評価し、進もうとしている分野の機会と脅威に照らし合わせて、個人の進むべき方向、活動内容を設定するのです。これによって全く新たな戦略が出てこなかったとしても、今これをやるべき理由など、いくつかの発見があるはずです。

さあ初めの一歩を踏み出してみましょう。