「技術者」×「キャリア」でGoogle検索したところ、本書が検索順位第1位で表示されたため興味を持って購入してみました。

著者の竹内健氏は大学卒業後、フラッシュメモリーを発明した舛岡富士夫氏との仕事を志願して東芝に入社しましたが、実用化は苦難を極め20年の歳月を要しました。そしてようやく大規模な投資で東芝の稼ぎ頭になるという、まさにその絶頂期に東芝を退社し、大学教授に転身しました。

それまでの経緯から、大きな成果を上げても正当な評価が期待できずに、また狭い専門領域に留まることで事業が縮小した時のリスクを感じて、たまたま話があった大学研究職への転身を決意したのです。

本書はそんな著者が後進のエンジニアに送る、経験的な技術者キャリア論です。

全体を通じ、「近年の技術は変化が激しく、会社員キャリアを通じて一つの専門で通せることはない」という前提があります。私の企業時代30年を振り返っても、入社後20年は中身が変われど「光ディスク」という大きな括りで仕事していましたが、最後の5年はプラズマディスプレイを扱い、それも最後は消滅してしまいました。このような比較的製品ライフサイクルが長い時代にあってすら、成果を上げるには専門領域を極める必要があり、狭めるとその技術終焉と共に技術者キャリアが終わってしまうリスクが高まるという二律背反の状況に追い込まれます。

そこで筆者は第1章で、企業が要求する狭い専門性を深めると同時に、その応用や経営などを横方向に展開する、いわゆるT字型のスキル構築を勧めます。
ただし学生から入社初期にまずは専門領域を深め、その後で横方向に広げるという順番が大事とも説きます。歳を重ねてから専門を深めることが容易ではないからです。

専門分野で袋小路に追い詰められない方策として、筆者は第3章で技術者であっても「文系力」を身に付けようと語ります。ここでの文系力とは、経営力であったり、発信力、自己分析だったりします。技術力を磨くのは当たり前で、その上で前述のようにT字展開するわけです。筆者は実際に30代でスタンフォード大学に企業留学してMBAを取得し、企業研究の傍らで学会に論文を投稿して40前にして学位を取得しています。

これらの点では私も遅まきながら55歳でMOT、59歳にして学位を取りましたから、ちょっと似ているところがあります。いずれも良かったと思う反面、その効果を長く享受するためには、もう少し早く取っておけば良かったと思うものです。

後半の第5章で筆者は「エンジニア人生は逆張りでいこう」と提起します。これは会社の言いなりになっていることが、必ずしも良いキャリアを約束しないことを意味します。新しいことを始める時の次の三つのルールを紹介していて興味を引きます。

  1. 新たに挑戦したい分野の先駆者などに、広く聞いて回る
  2. やることを決めたら、周囲の人に宣言する
  3. チャンスが来たら、全力でやり遂げる

私もこれらをどこかで聞いたためか、起業志願者には近いことを次のように話しています。

  1. どうしたら良いか分からない時は、自分が尊敬している、あるいは理想に近い人と会って話してみる。
  2. あるものが欲しい、こうなりたいと思ったら、書いたり、人に話したりしていると、いつか実現する。
  3. チャンスは後で気づいても間に合わないので、早めに捕まえにいく。

企業内技術者は、考えなくても仕事が指示されるため、ある意味で楽です。そのため、自立して何をどうするか自由に決められる状況で、的確な判断をする訓練ができていません。いつ企業から離れても独力で判断できるように、30/40代から意識的に行動しておくことが、キャリアリスク防止に有効です。

本書には、他にも技術者が自らのキャリアを振り返り、将来を考えるためのヒントが満載です。企業内で専門技術習得に邁進し、ふと現状に疑問を感じた迷えるエンジニアさんに一読をおススメします。