エンジニアの資格3:技術経営修士(専門職) MOT

2020年2月11日エンジニアのキャリアデザイン, 技術経営(MOT)

技術経営修士(専門職)とは

技術経営修士(専門職)、通称MOT (Management of Technology)を一言で言えば、技術者向けのMBA (Management of Business Administration)教育課程です。技術者のほとんどは大学の工学部を卒業しているわけで、技術に関しては一通りの知識を学んでいるものの、その技術をどのように事業化するかを学んでいないことがほとんどです。

企業内技術部門でのキャリアを積んで、リーダー、課長、部長、事業部長と昇進するにつれて必要に迫られて開発テーマ管理、原価計算やら、財務分析やらをオンジョブで覚えていくのが一般的です。もちろんしっかりした大手企業では、そういった事業化の原理原則や考え方を社内教育してくれますが、事業化教育を網羅的、体系的に教育してくれる会社はごく少数です。

 

技術経営(MOT)教育の歴史

そもそも技術経営(Management of Technology: MOT)という言葉を使い始めたのは米国であり、1962年にMITのE.ロバーツ教授らが「Management of Science and Technology」という研究分野を作り、1981年にMITスローンスクールに「技術を市場化する」目的でMOTのコースを設置したのが起源と言われます。1970-80年代に高度成長する日本に打ちのめされ停滞する米国で、技術経営の重要性に対する認識が高まり、スタンフォード大学ビジネススクールがMOT講座を開設すると、1990年代にその動きは全米に広まり、1999年には講座開設大学が247校を数えるまでに増え、その後の米国産業の復活をイノベーション、起業面から支えたと言われています。

 

日本の技術経営(MOT)教育

米国の動きを見守っていた日本でしたが、バブル崩壊によって今度は自国の産業が低迷することとなった21世紀に入り、これを打開するためにMOT教育機関を創設する機運が高まりました。2003年の芝浦工業大学「工学マネジメント研究科」を皮切りに「専門職大学院」が開設され、その後5年ほどで45校ほどになったのです。

技術の市場化、価値化を進めるための考え方や、方法論を学ぶことで、経営の分かる技術者を育てようというコンセプトは共通ですが、カリキュラムはイノベーション、リスクマネジメント、産学連携、中小企業経営、知財、環境など、大学によって力を入れる分野に特色があります。

 

技術経営(MOT)教育の課題

21世紀の製造業を牽引すべく期待されたMOT教育でしたが、本家の米国ではMBAとの差異化が難しく、再びMBA教育プログラムの一部として組み込まれる傾向にあります。日本のMOT教育は工学的志向が強くて就学者のほとんどが技術者という傾向にあり、米国では製造業の経営に特化したビジネススクールだったMOTとは違うポジションになっています。

そもそも上場企業の上級管理職におけるMBA取得者が米国で40%程度であるのに対し、日本ではMBA以外の大学院修了者を加えても6%に満たず、経営における体系的な知識や論理的思考が重視されていません。現にMBAやMOT修了者が必ずしも日本の企業内経営分野で重用される機会を得ていないという報告もあり、志願数が伸び悩み募集を停止するMOTすら出てきています。

MOT修了生の一人である私としては残念ですが、製造業に限らず日本の企業が論理ではなく、やや情緒的に運営されている例は多く目にしており、すぐに変わることはないでしょう。また有名ビジネススクールはそこで得られる知識というよりも、入学の難関を突破し、またいずれ著名企業の幹部となる確率の高い同級生、同窓生たちと親密な関係性を築けることも大きな価値です。日本国内でそれに相当するMOTクラスは現時点でほとんど見当たらず、私のような修了生が実績をあげてその歴史を作っていく使命を負っています。

 

技術経営(MOT)教育への提言

多様な経営手法、事例を知り、演習経験を積むことが、技術者にとってプラスであることは間違いなく、技術経営は単独の研究分野あるいはCTOへの近道というよりも、技術者を目指すすべての人材が習得すべき基本的リテラシーであるべきと私は考えます。自分の学生時代を振り返ると、工学部に進学した時点で「技術」への関心は高いものの、「技術経営」については重要性どころか存在すら知りませんでした。ほとんどの学生が同様でしょう。単に製品設計や技術開発ができるだけでなく、それを効果的に社会価値に変換し企業に利益をもたらすために、工学部の2年から3年にかけて、経営工学の方法論も取り入れた4~8単位の技術経営講義を必修にすることを提案したいものです。

一方で技術経営を全く知らない企業内技術者に対する教育制度の充実も重要です。技術系部署の管理職、責任者あるいは将来の候補に対して社内教育を整備するか、社外で学ばせるかの取り組みを進めて欲しいものです。

書籍「10年後生き残る 理系の条件」竹内健著を読んで

2020年1月23日エンジニアのキャリアデザイン

「技術者」×「キャリア」でGoogle検索したところ、本書が検索順位第1位で表示されたため興味を持って購入してみました。

著者の竹内健氏は大学卒業後、フラッシュメモリーを発明した舛岡富士夫氏との仕事を志願して東芝に入社しましたが、実用化は苦難を極め20年の歳月を要しました。そしてようやく大規模な投資で東芝の稼ぎ頭になるという、まさにその絶頂期に東芝を退社し、大学教授に転身しました。

それまでの経緯から、大きな成果を上げても正当な評価が期待できずに、また狭い専門領域に留まることで事業が縮小した時のリスクを感じて、たまたま話があった大学研究職への転身を決意したのです。

本書はそんな著者が後進のエンジニアに送る、経験的な技術者キャリア論です。

全体を通じ、「近年の技術は変化が激しく、会社員キャリアを通じて一つの専門で通せることはない」という前提があります。私の企業時代30年を振り返っても、入社後20年は中身が変われど「光ディスク」という大きな括りで仕事していましたが、最後の5年はプラズマディスプレイを扱い、それも最後は消滅してしまいました。このような比較的製品ライフサイクルが長い時代にあってすら、成果を上げるには専門領域を極める必要があり、狭めるとその技術終焉と共に技術者キャリアが終わってしまうリスクが高まるという二律背反の状況に追い込まれます。

そこで筆者は第1章で、企業が要求する狭い専門性を深めると同時に、その応用や経営などを横方向に展開する、いわゆるT字型のスキル構築を勧めます。
ただし学生から入社初期にまずは専門領域を深め、その後で横方向に広げるという順番が大事とも説きます。歳を重ねてから専門を深めることが容易ではないからです。

専門分野で袋小路に追い詰められない方策として、筆者は第3章で技術者であっても「文系力」を身に付けようと語ります。ここでの文系力とは、経営力であったり、発信力、自己分析だったりします。技術力を磨くのは当たり前で、その上で前述のようにT字展開するわけです。筆者は実際に30代でスタンフォード大学に企業留学してMBAを取得し、企業研究の傍らで学会に論文を投稿して40前にして学位を取得しています。

これらの点では私も遅まきながら55歳でMOT、59歳にして学位を取りましたから、ちょっと似ているところがあります。いずれも良かったと思う反面、その効果を長く享受するためには、もう少し早く取っておけば良かったと思うものです。

後半の第5章で筆者は「エンジニア人生は逆張りでいこう」と提起します。これは会社の言いなりになっていることが、必ずしも良いキャリアを約束しないことを意味します。新しいことを始める時の次の三つのルールを紹介していて興味を引きます。

  1. 新たに挑戦したい分野の先駆者などに、広く聞いて回る
  2. やることを決めたら、周囲の人に宣言する
  3. チャンスが来たら、全力でやり遂げる

私もこれらをどこかで聞いたためか、起業志願者には近いことを次のように話しています。

  1. どうしたら良いか分からない時は、自分が尊敬している、あるいは理想に近い人と会って話してみる。
  2. あるものが欲しい、こうなりたいと思ったら、書いたり、人に話したりしていると、いつか実現する。
  3. チャンスは後で気づいても間に合わないので、早めに捕まえにいく。

企業内技術者は、考えなくても仕事が指示されるため、ある意味で楽です。そのため、自立して何をどうするか自由に決められる状況で、的確な判断をする訓練ができていません。いつ企業から離れても独力で判断できるように、30/40代から意識的に行動しておくことが、キャリアリスク防止に有効です。

本書には、他にも技術者が自らのキャリアを振り返り、将来を考えるためのヒントが満載です。企業内で専門技術習得に邁進し、ふと現状に疑問を感じた迷えるエンジニアさんに一読をおススメします。

日本の公的教育費支出が世界最低水準らしい

2020年1月13日エンジニアのキャリアデザイン

 OECDが発表した調査結果によれば、日本の教育への公的支出は35か国中最下位だったそうです。
https://resemom.jp/article/2019/09/11/52413.html?fbclid=IwAR061ubtSV6IRkAkEM07JPSaxDJo62MKzhxaTpl__py2O5DRnfbzm777Pi0

 確かフィンランドが思い切った予算を使っていると聞いたことがあり、日本はさほど高くないだろうという意識はありましたが、そこまでひどいとはちょっと驚きです。
会社を辞めてから自腹で大学院二つ(技術経営修士と、工学博士)修了した自分としては、最も高いリターンが期待できる投資は自分への教育と思っており、当然国家としても教育にもっと予算をつぎ込むべきと断言します。

景気回復の即効性はないかもしれませんが、子供が考える力をつけて次世代の革新的事業(できればグローバル)を育成すれば数倍、数十倍の税収になって返ってくるでしょう。そのためには現在のような知識の暗記中心の教育ではなく、フィンランドのような「考え方」の教育に変質させなければ意味がないでしょう。そうか、今の教育予算を増やしてもダメだから、政府はそれをしないんでしょうか?

同じことが企業内教育にも言えます。へたな設備投資より社員への教育に投資した方が、利益へのリターンが大きいと思われるのに、業績が悪くなると真っ先に減らされるのが教育費だったりします。営業利益率30%超で有名な中小製造業のエーワン精密は、好況の時はひたすら作る、不況の時は次の好況に向けて準備する、と言います。業績が悪くて生産時間に余裕がある時こそ、社員教育の好機なのです。

また企業の教育プログラムを待つだけでなく、社員個人としても積極的な自己教育投資を勧めます。自分の理想のキャリアを思い浮かべたときに、それに必要となるスキル、知識は何でしょうか? 従前と異なり、Webを通じた手ごろな学習プログラムが充実しています。もちろんしっかり体系的に学ぶなら学校に入るのも良いでしょう。少子高齢化に伴い、学生を集めにくくなり社会人教育に力を入れている大学も増えてきました。昔は一つのスキルを獲得したら、40年の会社員人生をそれで乗り切れましたが、現在の技術寿命は分野にもよるものの10年と言われます。一つのメーカーに留まるにしても10-年ごとに学び直しが必要となるわけです。

もう一つのおススメは書籍の大人買いです。自分が専門にしようと思う分野に関連する本をAmazonなどで検索して、「どれを買うか」ではなく、まとめて「全部買う」のです。全頁を読む必要はありません。とりあえず興味を引く部分だけ読んで、あとは本棚に並べて気が向いたときに読みます。同じ分野であれば、本が変わっても同じ内容が繰り返される部分が現れますから、2冊目、3冊目と読み進むにつれ読み切る時間は短くなり、全冊目を通すころには、その道の第一人者の知識が得られます。会社の図書費で買って会社で読んでいると、仕事してないじゃないかと顰蹙を買いますから、自宅で読みましょう。ベストは自腹で買うことです。自分のお金で買った本は吸収度が全く違います。Anazonマーケットプレイスやブックオフだと、素晴らしい本が定価の2,3割で手に入ることもあります。

ネット上の情報は無料で便利ですが、玉石混合です。石より困る誤った情報もあります。書籍の場合は、体系的にまとまっていますし、少なくとも出版社の編集者がチェックしますから、最低限の品質が担保されていて、時間の無駄を防止できます。

前述のように私は退職後二つの大学院就業のために学費だけで400万円ほど投資し、経営工学、技術経営を中心に1000冊の書籍を購入(1冊千円として100万円)しましたが、明らかに投資を上回るリターンを受けており、これからも死ぬまで受け続けるでしょう。

「自分自身への教育投資」是非実行してください。

エンジニアの資格1:技術士

2020年1月9日エンジニアのキャリアデザイン

技術士とは何か?

私は企業に30年間在籍していた当時、技術者としては比較的資格を多く持っていた方だと思います。といっても取り組み始めたのは45歳を過ぎるころからです。それまでは必要性も有効性も感じていませんでした。会社にもよるのでしょうが、私の前職で技術士、MBA/MOT、博士といった重めの(^^;)資格をひとつでも持っている人はほとんどいませんでした。技術者が2000人を超えるなかで、技術士は私一人だったのです。

有資格者しかできない業務がある弁理士や弁護士、会計士などを業務独占資格と呼ぶのに対応して、技術士や中小企業診断士は名称独占資格と呼ばれ、無資格者との差異は「相応の能力を持っている」と国家が認定していることだけです。

技術士がいることで公共事業の応札時に有利になるために、建設部門などでは業務独占ではないものの、多くの技術者が受験しますが、機械、電気、化学といったその他部門は、次のような目的で、技術者が受験するようです。

(1)技術者としての力試し
(2)独立コンサルタントとしての実力認証
(3)退職後の名刺肩書

現在技術士の英語訳は”Professional Engineer”です。2000年までは”Consulting Engineer”でしたが、技術士の8割以上が会社員や公務員という現実に合わせて解消されたものですから、必ずしも(2)のように独立する予定がなくても資格取得を目指すことは全く問題ありません。

 

技術者は技術士資格を取るべきか?

では技術者たるもの一体技術士資格を取るべきなんでしょうか?それは当然その技術者が何を目指しているかによります。

ただ食べるため、家族を養うために技術者という「職業」についているのであれば、苦労して資格を取得してもその労力にふさわしい見返りは必ずしも得られません。自分のケースでいえば、一次試験の準備に費やした時間は150時間、二次試験に350時間、総監受験に200時間といったところです。時給2000円なら合計140万円?(笑)報奨金も出なければ、給料も上がりませんでした。大赤字です。

それでも私は次の理由で、技術士資格取得を多くの技術者に勧めます。

(1)自己研鑽の習慣

技術士を目指すまでの自分は、居合流というか、必要最低限の知識は勉強するものの、それ以上に自分の能力を高める勉強はしませんでした。多くの技術者がそうではないかと思います。

技術士試験は当然何が出題されるか分からないので、必然的に網羅的な学習を強いられます。おかげで、それまで全く知らなかった分野の知識を獲得することができて非常に新鮮でした。実はこの時にまとめた内容は、のちに大学の非常勤講師をやることになった時、大いに役立ちました。受験対策の資料とそこで得られた知識がなかったら、私は講師を引き受けることができなかったでしょう。

また3年間毎日退社後に勉強していたことが習慣となり、合格後も勉強せざるを得ない観念が身につきました。その延長でMOT、博士課程に繋がっていったのです。知識だけでは成果が出ませんが、技術者として周りの人より知識があればそれだけ優位に立てることも事実です。

(2)技術士会の人的ネットワーク

技術士登録すると技術部会や専門部会などから多様なイベントの案内が届きます。地方であれば地方本部や県支部のイベントもあり、また技術士同士だけでなく業界団体や研究会との接点も増えて、社外技術者との交流が一気に増えます。企業内技術士である限り、その効用も限定的ですが、いずれ退職したあとはこれらの人脈が大いに役立つこととなります。

できれば学会や技術士会の委員か幹事を一つくらい引き受けて、ボランティア的に活動しておきましょう。私が技術士資格を取得したのは退職1年前でしたから、在職中はさほどネットワーキングできませんでした。もっと早くから交流を深めておけば良かったと思っています。

社内だけでも非常に多忙で、さらに家庭でも父親の役割もある中で、技術士受験の勉強に時間を割くことが容易ではないかもしれませんが、なんとか時間を捻出して挑戦してほしいものです。

技術士資格を取るべきではない技術者

そうは言っても、技術士に挑戦すべきではない(挑戦できない)技術者もいます。それは技術者ではありながらも、管理者から経営者へのステップを先頭で上っている人です。技術士はどちらかというと独力での技術能力を評価されます。管理職、経営者は、組織としての成果を求められるため、必ずしも技術力そのものを求められません。そういった人は技術士の受験勉強が役にたたないリスクが高まります。どちらかといえばMOT(技術経営)の勉強の方が、役に立つ可能性が高いでしょう。

もちろん経営者になっても時間的余裕がある技術者は受験しても構いませんし、そのような能力のある方ほど、力を入れれば合格の確率は高いとも予想されます。

参考になれば嬉しいです。

エンジニアの資格2 博士

2019年12月11日エンジニアのキャリアデザイン

博士とは、技術者の中でも研究者が持つべき資格といえます。

技術は、研究-開発-設計-生産-製造と進むわけですから、研究はエンジニアリングチェーンの中で最上流に位置することになります。各ステップに博士はいますが、圧倒的に研究職に多いでしょう。

最近日本の博士取得者が減っているという記事が目を引きました。

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO53006550V01C19A2MM8000/?fbclid=IwAR0gtiUP2Voum27Nhnm_4RlciFLiEDJCN7J21Uh-n8iAR8O9z5hqSZIvNKU

他国では博士を取ることで、研究組織だけでなく、一般企業でも重用され、報酬も上がるのに対し、多くの日本企業では博士資格が評価されないために、学生も博士課程に進もうとしないのです。

正に自分が博士後期課程に進学した2013年の東京工業大学においても、自分の所属する研究室の博士課程の院生は私以外韓国とスリランカから来た留学生のみで、日本人はいませんでした。損得を考えると、3年間で200万円をかけて取得する価値は見出しにくいのです。場合によっては、博士取得者は専門が狭くてつぶしが利かず、企業で使いにくいとさえ思われるリスクがあります。

しかし一旦学部か修士卒で企業に就職した人間が、仕事をしながら学位を取得する場合は異なる評価が可能です。まず研究中も仕事をしていますから、学位取得後の就職の心配がありません。また通常仕事の内容を博士研究のテーマとしますので、時間の無駄がほとんどありません。家族と過ごしたり、遊んだりする時間は一時期犠牲になりますが、修士の延長で博士課程に進むのに比べると、精神的ストレスは大幅に緩和されます。

また指導教官との相談ではあるものの、比較的自由にテーマ設定することができ、私の認識している限りでは社会人の方が、教授会の判定も甘い傾向があるようです。

とはいえ、思い付きで取れる資格ではありませんから、周到に準備しましょう。もし将来的に学位を取る気持ちが少しでもあるなら、テーマに関連する最低一つの学会に所属します。そして自分の仕事テーマに一区切りついたタイミングで、可能であれば論文投稿しておきます。また研究テーマに親和性のある先生とは仲良くしておき、なにか機会があるときに、博士論文が書けるか聞いてみます。査読付き論文が3~5本以上あるならば、運が良いと論文博士となれる可能性があります。そうでなくても1-2年の課程に入学して博士論文をまとめる機会がもらえる可能性があります。

ただし大学院により、博士論文執筆開始へのハードルは大きく異なります。一般には著名な学校ほどハードルは高く、何とか入学許可をもらってもゴールできません。お金と時間の無駄になってしまいます。先生と事前に十分話し合うのは当然のこと、在学生、OBなどの経験談も収集しておいた方が良いでしょう。

そして前述のように、学位を取得しても給与が上がらず、昇進もしない企業が多数です。学会で座長を頼まれたり、専門誌の記事執筆を依頼されたりすることが、多少自尊心をくすぐる程度です。もし仕事で海外の技術者と交流する場合は、一目を置かれるでしょう。

またすぐに昇進につながらなくても、課長、部長、事業部長と進むにつれ、他の条件が全く同じであれば、資格のある人が

結論として、企業内技術者が何が何でも取りに行く資格ではないと思いますが、研究所在席の場合など、論文投稿の機会があるのであれば、活かしておく方が良いでしょう。

自分の場合、まさに思い付きで博士課程に進み、仕事をしながらそれをテーマに論文を執筆し、還暦になる前月に学位をいただいたのですが、「これでもう取るべき資格は制覇した」とほっとした気分になりました。子供たちも独立して比較的時間が自由になる良い時期だったかもしれません。

もやもやしているのなら準備の上で挑戦してみても良いでしょう。

 

 

製造業教育関係者からの相談

2019年11月16日エンジニアのキャリアデザイン

先週技術教育に関心のある方々向けに「技術者を育てる現代版教育体系の作り方」というWebセミナーを企画したところ、40名もの応募があり終了後のアンケートでも予想を超える好評で恐縮しました。セミナーの中でも「技術者教育は他の企業内教育と比較して難しい」というお話をしましたが、それを実感している人が非常に多いことが改めて分かります。
さらに30分の教育相談を提示したところ、数社の方にご希望いただきました。
共通する課題がありそうでしたので、(当然ですが)実名は避けてポイントを紹介します。

小企業なので技術教育の仕組みが全くない

40名ほどの規模でしたので、当然しっかりした教育の仕組みが整っている企業はほとんどないと思われます。しかしそれで良いわけではなく、とにかく一歩目を踏み出すことが大事です。特に一人では心理的にもキツいので、初めに社長に声をかけて、最低二人の「技術教育委員会」を作ります。
次に第一回技術教育委員会では、社長にも入ってもらって「全社教育方針」を作ります。そんなに独自性がなくても良いでしょう。「当社は人材教育をもって競争力ある製品の設計および生産を実現する」とか、「当社の成長に人材の育成は必要不可欠であり、これに注力する」とか、ある意味当たり前の内容でも良いと思います。間違っても「すべてに優先して人材を教育する」など、実行できない方針を掲げると、かえってまずいことになります。
ついでに現実的な教育予算枠を設定しましょう。教育費は多いほど効果も上がるでしょうが、教育に時間をかけるほど通常業務時間が減るというジレンマがありますし、予算を掛けるにしても限度があります。上場企業+アルファの経理勘定科目で人的費用に占める教育費の比率は平均0.3%程度というデータがあります。人的費用に2億円払っている企業なら、60万円ということになります。中小企業でも何とか捻出できる金額ではないでしょうか?とにかく60万円を枠として社長から約束してもらい、これをいかに効果的に使うかを委員会で考えます。
委員会も隔月1時間で良いので、1年分の日程を決めてしまいましょう。年間6時間くらいなら何とかなります。何とかしましょう。そこでも無理な計画は立てずに、現状の整理から初めて、弱点を補強するか、強みを伸ばすか、PDCAを回しながら少しずつ進化させていきましょう。
とはいえ40名で60万円は、一流の講師を呼んだりするとあっというまに使い切ってしまいます。そこは通信教育、映像教材、Web講座などを組み込むことで大幅に費用を節減することが可能になります。まだまだ開発途上ですが、注目したいですね。

個人単位の設計業務で一体感がない

機械設計の受託会社ですが、個人単位の業務のため、発注元との関係が強くなって退社することも多いところが課題でした。退職を防ぐには、個人事業では実現できない何らかのメリットを提示する必要があります。例えば、前項の技術教育委員を募って、複数人で計画を立ててもらう、設計生産性向上プロジェクトを立ち上げてメンバー会議を定期的に実施するなどが考え付きます。
そして基礎的な設計法の教育しか実施していなかったようなので、最先端設計ツールや、設計している製造設備や最終製品など応用技術の先端講座教育も提案しました。こちらも有名講師を呼んだのでは費用がかさみますから、Webの活用は非常に効果的だと思います。

皆さんのお話を聞いて、技術者教育の必要性をひしひしと感じ、ここは私も頑張らねばと思いを新たにしました。

シュロモ・ベンハー著「企業内学習入門」を読んで

2019年11月13日エンジニアのキャリアデザイン

企業内の技術者教育に関する書籍を探していたら、「企業内学習入門」という本が見つかり、早速購入してみました。
国際競争力ランキングで有名なスイスのビジネススクールIMDのシュロモ・ベンハー教授の専門分野は、まさに企業内学習。この280ページ定価2700円(税別)の正統派ハードカバーがAmazonマーケットプレイスで送料込み524円で買えたのは感激モノです。

本書の構成は、企業内学習の手順そのものです。
まずは第1章で企業内学習戦略を考える。これは当然企業、事業の戦略と整合していなくてはいけません。「どう教育するか」の前に「何を教育すべきか」が決まっている必要があります。

第2章と3章でラーニング・ソリューションを選択、開発する。旧来の教育はオンジョブであれ、オフジョブであれ人から人へ直接伝えるものが大半でした。参考書を読むとか通信教育もありましたが、補助的な手段でした。十数年前にeラーニングが注目されましたが、IT環境が不十分で今一つ効果が評価されませんでした。しかしここ数年インターネット上の動画配信技術が急激に発達して、これを使うことで有効で安価な教育ツールが実用段階にきています。使うか否かの選択ではなく、「どう使うか」の時代といえます。

第4章では、学習する内容に対するリソース(講師)を考える。うまい講師が手近にいれば良いですが、必ずしもそんなに都合よく見つかりません。ここは外部の力もうまく使いたいところ。そうすることでIT利用がますます有効になります。

第5章で企業内学習の効果を評価する。(1)反応、(2)学習、(3)行動、(4)結果それぞれの段階で評価するというカートパトリックのモデルにそって議論され、受講後のアンケートは良く使われますが、「理解できた」と「効果的に使えた」は同等ではありません。いくつかの評価方法が提案されます。

第6章は企業内教育の位置づけを高めるためのブランディング。教育体系を構築しても、企業内での位置づけが低ければ、多忙な日常業務の後回しとなり、効果的なタイミングで教育が実施できません。また学習は、多分にメンタルな作業であり、意欲側面からの体制作りも重要です。

第7章では、企業内教育の組織体制を考える。教育で真に効果を発揮するためには、長期的な運用が不可欠であり、それには体系を組織化しておくことが不可欠です。教育委員会を効果的に機能させるための注意点が提示されます。

これら企業内教育の7つの要素が、バラバラではなく調和を取りながら粛々と実行されていくことで、組織は強くなります。さして斬新な提案はないものの、海外の研究者は実に体系化が上手です。技術者教育体系を考える上で、関係者は一読の価値があります。

技術者キャリアに関する講演抄録

2019年11月10日エンジニアのキャリアデザイン

昨日は久しぶりに仙台の母校で応用物理学科の同窓会に参加しました。
実は同窓会副会長を受けていたりしますが、忙しさを口実にほとんどそれらしい活動はできてませんでした。
今回講演講師公募ということでしたので、ものづくりドットコム認知度向上を兼ねて、講師に応募し、運良くお話する機会を得たものです。
ターゲットは企業内技術者やや若手としましたので、このブログの読者と完全に重なるため、こちらにも公開しておきたいと思います。ただし私のキャリアは工学部卒業生としてかなり傍流ですから、企業内技術者としては「こんな人もいる」程度に聞いておいてください。

結論は次の3つを挙げました。
1.人生思ったようにはいかない。思いもよらない不幸もあれば、奇跡のような幸運もおとずれる
2.想定外を楽しむ心の余裕がほしい
3.「人事を尽くして天命を待つ」行動しない人に幸運の女神はやってこない

私のキャリアを端的に表現するために、下記の人生グラフを表示しました。

私の人生グラフ

自分は比較的クールな性格なので、あまり感情の起伏は大きくないのですが、それでも気分が高揚する時もあるし、落ち込む時もあります。

ここ数か月は懸案だったM&Aが一段落し、同窓会でもお話しできる結構ハイな気分というわけです。しかしこのあとどんな事件が起こるかすべて予見することは不可能です。

そこで最後は次のようにまとめました。
1.人生何が起きるか分からないので、とにかく汎用的な能力を身につけておく。自己投資を厭わない。リターンが最大の投資は、自分の能力向上。
2.もし起業したらひたすら行動することで、幸運が舞い込む(かもしれない)

それとは別に、若い人向けに贈る言葉も用意したのですが、あまり若い聴講者がいなかったのでトバしてしまいました。折角書いたのでここに残しておきます。

1.必ずしも起業が良いわけではない。順調にキャリアが積めるなら大企業の方が大きな仕事ができる場合も多い
2.技術者は基本的に技術(ロジック)が好きだが、起業すると人間関係(非ロジック)の重要性が増す
3.そうはいっても不測の事態(リストラとか、上司との確執とか)へは備える必要あり
4.資格取得はないより合った方が良いものの、過度な期待は禁物
5.技術士会、学会、研究会、勉強会などを利用して社外ネットワークを広げておく
6.転職かコンサルか起業かは、経験と年代、環境、性格で変わる
7.いずれにせよ重要なものは、人のつながり、行動力、自分への投資

どうでしょうか?
またどこかで項目ごとに議論を展開していきたいと思います。

技術者のキャリアデザインをブログテーマに選んだ訳

2019年11月1日エンジニアのキャリアデザイン

元々ものづくりドットコムとの連携で、製造業の課題解決をテーマにブログを書いていたのですが、アメブロからWordPressへの移行に手間取り、5年ぶりに今再開したわけですが、テーマを若干変えて「技術者(エンジニア)のキャリアデザイン」としました。

理由は大きく三つあります。第一に私も63歳となり、自分がどう成長するかというステージから、これまでの自分の歩みを後進に伝えるステージに差し掛かったと判断したこと。

第二に50歳前後から10年かけて、技術士(経営工学部門、総合技術監理部門)、技術経営修士(専門職)、博士(工学)と、技術系の三大国家資格を取得し、キャリアデザインの大きな要素である資格に対して、比較しつつ説明できること。

第三は、ものづくりドットコムのセミナー案内機能が好評で、周辺オペレーションを見ているうちに、技術者の教育が極めて重要でありながら、確固とした体系がなく、どうやら各社各様に教育カリキュラムを工夫しているものの、成果を出すのに非常に苦労している様子が分かってきたことです。

私は製造企業に30年勤務して、多少は技術者教育にも関係しましたが、決してその道一筋に歩んだわけではありませんが、上記三つの理由からとりあえず技術者キャリアに関して、多少の発言が許されるだろうと思います。

そして調べてみると、技術者の歩むべき進路に関して、数冊の書籍はあるものの、その重要性と比較して異様に発信が少ないということも分かりました。

是非技術者の皆さんからの意見を反映させて、書き進めたいと思いますので、是非気軽に声を寄せてください。