技術経営修士(専門職)とは

技術経営修士(専門職)、通称MOT (Management of Technology)を一言で言えば、技術者向けのMBA (Management of Business Administration)教育課程です。技術者のほとんどは大学の工学部を卒業しているわけで、技術に関しては一通りの知識を学んでいるものの、その技術をどのように事業化するかを学んでいないことがほとんどです。

企業内技術部門でのキャリアを積んで、リーダー、課長、部長、事業部長と昇進するにつれて必要に迫られて開発テーマ管理、原価計算やら、財務分析やらをオンジョブで覚えていくのが一般的です。もちろんしっかりした大手企業では、そういった事業化の原理原則や考え方を社内教育してくれますが、事業化教育を網羅的、体系的に教育してくれる会社はごく少数です。

 

技術経営(MOT)教育の歴史

そもそも技術経営(Management of Technology: MOT)という言葉を使い始めたのは米国であり、1962年にMITのE.ロバーツ教授らが「Management of Science and Technology」という研究分野を作り、1981年にMITスローンスクールに「技術を市場化する」目的でMOTのコースを設置したのが起源と言われます。1970-80年代に高度成長する日本に打ちのめされ停滞する米国で、技術経営の重要性に対する認識が高まり、スタンフォード大学ビジネススクールがMOT講座を開設すると、1990年代にその動きは全米に広まり、1999年には講座開設大学が247校を数えるまでに増え、その後の米国産業の復活をイノベーション、起業面から支えたと言われています。

 

日本の技術経営(MOT)教育

米国の動きを見守っていた日本でしたが、バブル崩壊によって今度は自国の産業が低迷することとなった21世紀に入り、これを打開するためにMOT教育機関を創設する機運が高まりました。2003年の芝浦工業大学「工学マネジメント研究科」を皮切りに「専門職大学院」が開設され、その後5年ほどで45校ほどになったのです。

技術の市場化、価値化を進めるための考え方や、方法論を学ぶことで、経営の分かる技術者を育てようというコンセプトは共通ですが、カリキュラムはイノベーション、リスクマネジメント、産学連携、中小企業経営、知財、環境など、大学によって力を入れる分野に特色があります。

 

技術経営(MOT)教育の課題

21世紀の製造業を牽引すべく期待されたMOT教育でしたが、本家の米国ではMBAとの差異化が難しく、再びMBA教育プログラムの一部として組み込まれる傾向にあります。日本のMOT教育は工学的志向が強くて就学者のほとんどが技術者という傾向にあり、米国では製造業の経営に特化したビジネススクールだったMOTとは違うポジションになっています。

そもそも上場企業の上級管理職におけるMBA取得者が米国で40%程度であるのに対し、日本ではMBA以外の大学院修了者を加えても6%に満たず、経営における体系的な知識や論理的思考が重視されていません。現にMBAやMOT修了者が必ずしも日本の企業内経営分野で重用される機会を得ていないという報告もあり、志願数が伸び悩み募集を停止するMOTすら出てきています。

MOT修了生の一人である私としては残念ですが、製造業に限らず日本の企業が論理ではなく、やや情緒的に運営されている例は多く目にしており、すぐに変わることはないでしょう。また有名ビジネススクールはそこで得られる知識というよりも、入学の難関を突破し、またいずれ著名企業の幹部となる確率の高い同級生、同窓生たちと親密な関係性を築けることも大きな価値です。日本国内でそれに相当するMOTクラスは現時点でほとんど見当たらず、私のような修了生が実績をあげてその歴史を作っていく使命を負っています。

 

技術経営(MOT)教育への提言

多様な経営手法、事例を知り、演習経験を積むことが、技術者にとってプラスであることは間違いなく、技術経営は単独の研究分野あるいはCTOへの近道というよりも、技術者を目指すすべての人材が習得すべき基本的リテラシーであるべきと私は考えます。自分の学生時代を振り返ると、工学部に進学した時点で「技術」への関心は高いものの、「技術経営」については重要性どころか存在すら知りませんでした。ほとんどの学生が同様でしょう。単に製品設計や技術開発ができるだけでなく、それを効果的に社会価値に変換し企業に利益をもたらすために、工学部の2年から3年にかけて、経営工学の方法論も取り入れた4~8単位の技術経営講義を必修にすることを提案したいものです。

一方で技術経営を全く知らない企業内技術者に対する教育制度の充実も重要です。技術系部署の管理職、責任者あるいは将来の候補に対して社内教育を整備するか、社外で学ばせるかの取り組みを進めて欲しいものです。

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